2021年ヨル誕 

兄弟みんなでヨルの誕生日を祝い、夕食も済ませた後。他のみんなが自分の部屋に行ったのを確認して、リビングに足を運んだ。
「ヨル」
今日の主役は、リビングのソファで自分のスマートフォンを眺めていた。無理矢理隣に座ろうとすると、鬱陶しそうにしながらもスペースを空けてくれる。
「わざわざこっち座んなよ」
「いいじゃん、雨降ってるしそんなに暑くないでしょ?」
そういうことじゃねーとかなんとか言っているが無視する。ヨルの手元を覗くと、スマホの画面に表示されていたのは𝓑𝓛𝓞𝓞𝓓𝓢からのお祝いのメッセージだった。ビャクヤが事前に指定したタグで検索して、そのタグを使ってくれた𝓑𝓛𝓞𝓞𝓓𝓢の投稿を読んでいたようだ。
「よかったね、ヨル。みんなたくさん祝ってくれてる」
「……そうだな」
口ぶりは素っ気無いけど、画面を見つめる顔は嬉しそうだ。
「そうだ、俺からもう一個プレゼントがあるんだ」
事前に用意していた物を取り出す。俺がここに来た目的はこれだ。
「まあたいしたものじゃないんだけど……これ、前に美味しいって言ってたでしょ?」
コンビニやスーパーで買える一口サイズのチョコレート。個包装で箱にたくさん入っている。以前ヨルが気に入ってよく買っていたものだ。それを見てヨルがちょっと微妙な顔をする。
「あー……ま、もらっとくけどよ。さっきクソでけえケーキ食ったばっかやん?」
それはそうなのだけれど。しかし俺にはやりたい事があるのだ。
「ふふ、食べさせてあげるね」
そう言って自分の口に入れた。チョコレートの甘さが口の中に広がる。確かに結構美味しい。
「は?」
食べさせてあげると言ったのに俺が自分で食べたものだからヨルは驚いている。心配しなくても、今から食べさせてあげるのに。
「おいなんでアンタが食って、っんん!?」
喋ってる途中に悪いけどキスをした。ちょうど良く開いている口の中に、チョコレートと一緒に舌を入れる。引っ込めようとする舌を捕まえて絡ませれば、二人分の熱でチョコレートが溶けていく。
俺はヨルの膝の上に乗り上げ、顔を囲うようにソファの背もたれに両手をついた。
「んっ! っは……ぁ、やめっ、んぅ」
状況がわかってきたのか、ヨルは俺の肩を押して抵抗しだした。退かせようと思えば突き飛ばすなり何なりして力づくで退かすことも出来るのに。可愛らしく、形だけの抵抗をしている。

「……どう? 美味しい?」
「は、ぁ……わかん、ねえ、って」
顔を真っ赤にして、瞳は潤んでとろんとしている。ヨルは俺よりお兄ちゃんなのに、キスだけでこんな風になっちゃうくらい初心なのだ。
「じゃあ、もう一回ね」
また一つチョコレートを取り出して、口に含んだ。そのままもう一度唇を寄せる。
「はっ!? おいやめろ! もういらね、っ!」

四月の、俺の誕生日を忘れていたこと。正直言うと根に持っている。最終的には祝ってくれたけど……忘れていたことには変わりないし。だからその分、ヨルの誕生日は、今日が終わるその瞬間まで祝ってあげようと思う。『誕生日』って言葉だけで、今のこと思い出すくらいに。
俺たち二人の舌の上でどろどろに溶けているチョコレートみたいに、ヨルのことも溶かしてしまおう。