sweet memory, sweet blunch. 

 ふわふわのパンケーキ。たっぷり盛られた生クリーム。刻んで溶かしたチョコレート。イチゴとバナナとブルーベリー。
 甘ったるいものが積み重なって乗った皿は、見てるだけで胸焼けしそうだ。

 休日の昼食は手が込んでいる。ヨルの作るご飯はいつも美味しいけれど、朝に弱い彼は朝食は作ってくれないし、学校に持って行く弁当の中身も夕食の献立も俺達の希望はあんまり聞いてくれない。でも休日の昼食なら、トキシンとヨルの分の甘ったるいパンケーキと、ネィトとビャクヤと俺の分の甘くないパンケーキの二種類用意してくれる。
 厚いパンケーキとカリカリに焼いたベーコン。ケチャップのかかったスクランブルエッグ。アボカドとトマトのサラダ。それにデスソースをかけて美味しいご飯をさらに美味しくしようとすると「余計なことするな」とヨルに怒られる。ビャクヤはBLOODSに教えてもらってからハマったらしい食べるラー油ってやつを大量に乗せていて、そっちもヨルに怒られていた。山のように生クリームが乗ったトキシンとヨルのパンケーキより、デスソースをかけた俺のパンケーキのほうがよっぽど美味しいに決まっているのに。
 と言っても、こんなのはいつものことだし、ヨルも最近は一度怒鳴ったら後はあんまり文句は言わない。ネィトにも本人の希望通りベーコンを多めに乗せてあげてるし、トキシンのパンケーキはヨルの分より生クリームが多い。なんだかんだ言っても、ヨルは優しいのだ。
「トキシン、頬にクリームがついているぞ」
 隣に座るネィトの声につられて前を見ると、彼の言う通りトキシンの右頬に生クリームが付いていた。
「え? 気付かなかった……どこ?」
 口の周りを拭って取ろうとするが、生クリームは頬についたままだ。どう食べたらそんなところにつくんだろう。
「もっと右側のほ「そっち!」
 ネィトの声を遮ってビャクヤがトキシンの顔に指をさす。全然違うとこ指してるような気がするんだけど。
「ここ? とれた?」
「あっち!」
「どう?」
「こっち!」
「えぇ……? ビャクヤ適当に言ってない?」
 適当に言っている。ビャクヤに遊ばれているのに気が付いたトキシンは、自分の右側に座るヨルの方に顔を向けた。
「ねえヨル、まだついてる?」
 食べることに集中していたヨルは、口の中のものを飲み込むと大袈裟に溜息をついてトキシンの方へ振り向いた。
「アンタは小せえガキかよ? おら、もうちょいこっち寄れ」
 取ってあげるんだ……。
 ヨルは口は悪い癖に物凄く面倒見が良い。言われた通りにトキシンが顔を寄せて、ヨルがその顔を掴んで、そして

「うわあ」
 これは俺の声。
 トキシンの頬についてた生クリームを、ヨルが舐めて取った。

「あん? んだよクレハ」
「ンなぁ……それ、まだやってんの?」
 そういえば俺達兄弟がみんなまだ小さい頃、トキシンが食事中に口の端を汚していたら、今みたいにヨルが舐めて取ってやっていた。だけど、もう俺達はあの頃みたいに小さくないし。
「トキシンちゃんとヨルちんは〜今日もなかよぴ♡  だねえ♡」
「だからと言って直接舐めるのはどうなんだ?」
 言われてからやっと自分のした事に気付いたのか、ヨルの顔がどんどん赤くなっていく。トキシンは全く動じず、再び目の前のパンケーキに夢中になっている。
「〜〜ッ! 昔の癖だよ! クソトキシンがガキみてえなことしてやがるせいで、俺もそれにつられただけやん?」
 ヨルが赤い顔のまま言い訳すると、無心でパンケーキを食べ進めていたトキシンが不機嫌そうな顔で口を開いた。
「……あのさぁヨル、さっきから子供扱いするのやめてくれないかな」

 あ、始まった。

「ハァ? アンタがガキくせえのは事実やん? このクソガキ!」
「あぁもう! うるさいなあ! ちょっとクリーム乗せすぎちゃって顔についただけだろ!? だいたいヨルの方こそ……」
 くっついてベタベタしてると思ったらすぐこれだ。俺達兄弟は長いこと五人で一緒に過ごしているけど、この二人は仲が良いんだか悪いんだか未だによくわからない。まあ別にどうでもいいけど。
 とりあえずわかることは、二人のケンカがヒートアップする前にはやくこの昼食を食べ終えてしまわなければ、食卓がめちゃくちゃになってしまうという事だ。
「ねねね、クレハちん! またさっきのゲームする?」
 そういえばさっきまで、ビャクヤと一緒にゲームをしていたのだ。本当は食事中だってゲームをしていたいけど、今日やっていたのは持ち運べる携帯ゲーム機じゃないから、仕方がなく中断した。
「ん。昼ご飯だからってボス戦前で中断されたし、このあと続きからやる」
「んじゃあシュバババーッ!って食べて〜トキシンがドンガラガッシャーン!する前にお部屋戻ろ〜」
 それがいい。さっさと食べてしまって、昨日買ったばかりの新作ゲームの続きをやろう。
 トキシンとヨルのケンカはどんどん盛り上がっている。トキシンが何か壊し始めるのも時間の問題だ。


「うるっせえなこのクソ童貞!!」
「ハァ!? それは今関係ないだろ!! それに俺は童貞じゃない!」
「んなことは知ってるっつーの!!」

「おいお前たちいい加減に…………ん? どうしてそんな事を知っているんだ?」